よく寝る


おれはよく眠る。勤めがある日もそうであるが、予定がない日であれば、殊更酷いもので、ほとんど際限はなく、ほとほと嫌気が差してしまうまで眠る。食慾や性慾はとうに見限っているから、あまり構ってやらぬが、どうも睡眠の慾というものに対しては、そこまで思い切れぬ。というのも、それは眠りには、行う、という感じがないからであり、立ちながらでも、食べながらでも、限界に達すれば、自然と眠ってしまえるものだからである。眠っている間は眠る他にはなにをすることもあり得ず、時には寝言を発することもあろうが、たとえ夢遊病者であっても、ハッキリとした意思でもって、それを行っているわけではないのだ。又、おれにとっては、目覚めるということも、眠っている最中には到底起こし得ぬ行為であるから、毎度無事に起きられるのはまったく偶然のようなものであり、思った通りの時間に起きられた場合には、ほとんど奇跡のような思いがするのだ。それだから、おれは寝坊をしてしまっても、いかんことをしたと後悔はするものの、遅刻に対する責任などは感じぬ。大した反省もせず、まあ仕方があるまいと居直ってしまうため、約束の相手に怒られるばかりか、呆れさせてしまうことも屢々である。しかし、おれとてひとつの策も講じずに、ただ恬然と開き直っているわけではなく、近所の電器屋でもっとも煩い目覚まし時計を購ってみたり、蒲団ではなく座椅子で眠ってみたりと、でき得る限りの尽力はしているのだが、それでも起きれぬのだから、仕方があるまい。懈怠しているわけでも、惰弱なわけでもなく、ただ純粋に、眠っている間に、起きるということがどうしても思いつかぬのだ。
おれはあまり夢を見ぬ。おれにとって、睡眠とは、たまゆらの出来事である。それだから飽き足りぬ思いをすることも多々あるが、しかし、夢を見ても同じことである。夢の続きが惜しくなるばかりで、畢竟睡眠は如何なる場合に於いても飽き足りぬものなのだ。
おれは毎日の義務として、睡眠をしているのではなく、毎度確固たる意志の下、睡眠に没入している。集中を極めると、時間の感覚をなくしてしまい、アラもうこんな時間なの、とア然としてしまうことがある。おれの睡眠は、詮ずるところ、こういったものなのであろう。